アスペルガーってもう呼ばないの?


「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」の中に
「自閉性障害」「アスペルガー障害」「広汎性発達障害」
などと呼ばれていたいくつかの障害をすべて含むものとなりました。
つまり、2014年に改訂された診断基準の上では、これらの障害は別々のものではなく、

連続した障害なのだ!

という見方を新たに採用したのです。
(注:スペクトラム(連続体)という概念はDSM-5で特に重視されている見方です。)

ということで、ややこしいとは思いますが、診断学上つまり、診断名としての「アスペルガー症候群」は大きな枠に吸収合併されたのです。


さて、前回話を途中でやめた、DSM-5について、説明しておきますね。

DSM-5

とは、2014年にアメリカ精神医学会によって出版された「精神障害の診断と統計マニュアル」です。
同年、日本語訳の「DSM-5:精神疾患の分類と診断の手引」も出版されました。
日本の医学における精神疾患診断は、基本的はこのDSM(一部でWHOによる診断基準:ICD-10)を採用しています。


DSMは、何年かおきに小規模な改訂や診断名や診断基準の大幅な見直しなど大改訂が行われて、今回19年ぶりの大改訂で現在、「DSM-5」つまり
「第5版」に至るというわけです。


私は発達障害の専門家、研究者でしたが、
このいわゆる「発達障害」は
今回の改定版で
「神経発達症群/神経発達障害群」という
新しい大カテゴリーに属することに変更されました。
また、ADHDの訳語も
注意欠陥・多動性障害から
注意*欠陥*→注意*欠如*となり、
「注意欠如・多動症(注意欠如・多動性障害)」と
DSM-5の日本語訳では、英語の 「disorder 」をどう訳すかがはっきりと決まっておらず、「障害」と「症」が併記されています。

私も日本精神医学会の論文を読みましたが、訳語では、「今の社会の中での在り方」模索したカタチになっていました。

翻訳の段階では、「障害」という言葉が持つネガティブなイメージを避けることを意図した提案として「障害」ではなく「症」に変えることが提案されたらしいのです。しかし、ネガティブなイメージを避けすぎると、今度はかえって『過剰診断』という別の問題を引き起こすのではないかという問題提起もあったようです。
そうした議論を踏まえて、結局「障害」と「症」が併記されることになったというのこと。。。(余計にややこしい感じもしますが)



DSM-5が、何年かおきに改訂されているのは、臨床データや基礎研究に基づいた医学の発展によるものだけではありません。
「精神疾患と社会とのあり方」そのものが変化していることに対応して診断名が変化したり改訂されたりを繰り返した、
社会との「歴史」でもあるのです。



さて、話をDSM-5の診断上のカテゴライズに戻します。

DSM-5では、まず、精神障害が大きく「22カテゴリー」に分類され、その下に、診断名が挙げられています。

その22カテゴリーのひとつが
「神経発達症群/神経発達障害群」
です。
このカテゴリーの中には、以下のものが含まれています。

・ADHD
・知的能力障害群(知的障害)
・コミュニケーション障害群(吃音など)
・自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害
・限局性学習症/限局性学習障害(ディスレクシアなど、いわゆる「学習障害」)
・運動症群/運動障害群(発達性協調運動障害、チックなど)

『これって、これまで発達障害って呼んできたものばかりじゃん?』

と思われるかもしれませんが、以前のDSM-4-TRまでは別々のカテゴリーに属していたんですよ。

19年の間に基礎研究、臨床研究が進み、社会とも鑑みて、「神経発達障害群」という、このまとめ方=カテゴリーができたのだと思います。
この「神経発達障害群」というカテゴリー名の背景には、

[これらの障害には神経の発達のしかたという共通の原因に関連しているのではないか?]

という仮説に基づいているのです。

つまり親の躾や育て方や環境要因ではなく生まれ持ったものであり、発達に応じて変化するものということです。

もちろん、これは現在の仮説ですから、今後のDSMの改訂によって分類方法が変わることもあるかもしれませんが、、、、、
やっと同じカテゴリーになれたわけです。


以前にも書きましたが、診断がつけば、そこで終わりでもそこから始まりでもありません。
それからご存知の通り、診断ができるのは医師(専門医:小児神経科医、児童精神科医)だけです。
間違えて捉えて欲しくないので、補足しておきますが、全ての医者が全ての病気、疾患に対して診断できるわけではありません。専門分野が細分化され、専門医の認定資格がたくさんあります。分かり易く言えば、同じ外科医でも整形外科のDr.がレントゲン写真から骨折を見極めるのと、(例えば)心臓外科のDr.では全然、所見(見立て)が違うんです。


脱線しましたので、話を戻します。

診断名は、スペクトラム(連続的)なものなので、発達に応じて変化もしていきます。

未就学児の頃はADHDだったのに、小学校高学年になると自閉症スペクトラムになったとか、その逆もよくある話です。
親御さんが問題意識が高すぎて、「他の子と違う」と思い込み過ぎて、受診が増え、大学病院の小児科(神経発達外来日)などは予約で半年先までいっぱい。
診断がつかないと逆に不安になったり、診断がついて安心したり。。。
ひとそれぞれ受け取り方が異なります。
それこそ「個」の抱える問題です。

私が「発達障害」の研究を始めた20年くらい前は、発達障害の一般書なんて、ほとんど本屋さんに並んでいませんでした。専門書も少なく、欧米の論文を読みあさりました。Special Education 、今で言う「特別支援教育」も欧米の方がはるかに進んでいました。

発達に偏りは、実はみんなありますよね。かけっこが遅い子、逆上がりが苦手な子、跳び箱が飛べない子、水が苦手な子、宿題しない子、言い出したらキリがありません。
凸凹があって人間です。
完璧な人なんて、そんなにいません。

短所は長所でもあるんです。

私は、心理系の大学&大学院を修了したので色んな分野の「心理学」をざっと六年間学ぶことができました。もちろん修了後も、医学部の助教として脳科学の研究に没頭しつつ、臨床心理士資格試験のための勉強をし、心理臨床実習もしました。
そういう時期が長かったせいか、自分自身の子供の頃の色んなことを何度も何度も記憶、感覚を辿り向き合いました。
私自身、すごく勉強ができたし友人も多かったケド、何故か学校がキライで「学校が火事になってなくなればいいのに」っていつも思ってたこと。
「将来は学校の先生になればいいのに」と言われて「何で?私が学校の先生なんかに?」「絶対嫌だ!」と心底思っていたこと。
(学校の先生が決して嫌いだったのではないんです。広い世界に出たいという一心だったんです)
そういう子供時代のさまざまな感情をきちんと大人になった自分がリアルに思い出す作業をするんです。
それって、大人になったら忘れちゃった感情です。
子供の頃しか生まれない感情。
子供のゆえに思う、気持ち。
子供の頃の微妙な繊細な、ややこしい気持ち、忘れちゃっていませんか?

大人と子どもでは感覚、目線の高さ、動きの早さ、思考の範囲、色んなことが異なります。
発達障害を持っていればなおのこと、他の同年代のお子さんとも、これらのさまざまな感覚(見え方、聞こえ方なども)や思考パターンが異なっている場合があります。


「絶対ダメなものは駄目」
これは家庭のルールとし、徹底すべき約束です。

発達障害を持ってるかどうか関係なく、それぞれのご家庭のルール(倫理観)です。

でも、ルールの徹底と「ただの我慢」は異なります。
感情にはフタをしないこと。
きちんと吐き出す方法、術(すべ)を教えるのは、大人の役目ではないでしょうか?
どう言えば、自分の気持ちがきちんと相手に伝わるか。
そして、相手の気持ちを聞いてあげられる「余裕」。
これは人間関係において、永くとても重要なことです。

ADHDや他の神経発達障害が、個性かどうかは、こういう「余裕」がないとなかなか思えません。
思えない時は、困っている真っ最中なんです。困っていなかったら、
「個性」って思えるんです。
診断名に左右されないで下さい。
残念ながら、それぞれの診断名に対応マニュアルはありません。
「個」に応じた理解をしていくしかないのです。
そうすれば、「個性」として花開く時が来ると思います。





こっからは余談ですが、、
それから、女性(母親)の方がお腹に10ヶ月子供を宿していた分、腹で考えるので、肝がすわっています。
一方、男性(父親)は、そもそも腹がすわっていません。自分の子供のことなのに現実をなかなか受け入れようとできないんです。それも当然です。
だって、10ヶ月お腹にいる感覚を味わった女性、産んだ痛み、男性からすると、
そういったことは無く、
「目の前にリアルにサルにような赤子が現れて子育てが始まった」のですから。
女々しいというのは男の人には言いますが、女性には言いませんよね。
神経発達障害の人は、神経(脳)の発達に偏りがある、あるいは未発達であるという仮説があるように、男女で脳にも明らかな差があると報告されています。
思考は、永遠に平行線の男女ですが、だからこそ、凸凹で支え合えるとも言えます。
男女関係、夫婦関係も互いを個性と思えるかどうかは、気持ちに余裕があるかどうかではないでしょうか?

 

ADHD/ASD/発達障害の専門家の探究〜Recherché LIFE〜

心理系大学院修了後、医学部助教として約10年勤務。「脳科学・心理学・生理学」の3つの専門性を活かして講義や研究に励んできました。特に発達障害の脳科学研究が専門。同時に心理臨床のスキルを活かし、小中高校でスクールカウンセラーとして子供から大人まで色々な方の様々な相談や問題(発達障害、不登校、DV、いじめ、学級崩壊etc…)を一緒に解決してきました。専門的な話から非常識な話まで何でも受け止めます。

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